以下の資料は、ラボ・メンバーの論文作成の手助けになるように書き進めたもので、その後、某出版社に持ち込んでボツになったので、ネット上で公開することにした。「科学論文の書き方」ではなく「科学論文の作成のテクニック」に関するものである。こんな内容の類書はないので、売れると思ったんだけどーーー。

 まずは1回目の部分。何ヶ月の間で更新していき、全部で18回になる予定である。もしこの資料を読まれた方は、この資料があなたに役にたったかどうか、ぜひ、教えて下さい。お願いします。

第1章 論文を作ろう!

 みなさんは研究成果を発表する論文をどのように作成していますか?

 冒頭の論文は私が5年前(1999年)にNature に発表した、食欲を刺激するホルモン“グレリン”の発見の論文である。論文発表の舞台裏については私のラボのホームページを見て下さい。

(http://www.lsi.kurume-u.ac.jp/molecular_genetics/mmed.htm)

 この論文の評価は結構高く、私と共同研究者の寒川はグレリンに関する研究で、2000〜2001年の2年間に高頻度引用文献(ホット・ペーパー)の総論文数で世界トップにランキングされた。グレリンに関する研究論文も2005年7月の段階ですでに1,200編を超えている。

 このグレリン発見の論文には、医学・生物学分野の科学論文に典型的なFigureをいくつか含んでいる。いわく、棒グラフ、線グラフ、写真などの画像である。本書は、この論文を作成した時の実例に基づいて、どんなコンピューター・ソフトを使って、どのように論文を作成していくのかを解説したものである。

 巷に論文の(内容の)書き方、いい論文のための英文の書き方、いい雑誌に掲載されるための方法など、論文の内容面を改良するための解説本は多数ある。しかし、科学論文をどのようなソフトを使って、実際にどう仕上げていくかを書いた本はあまりない(本屋で調べたかぎりではまったくなかった)。あの有名な研究室ではどんなソフトを使って論文を作っているのか、などの情報は不思議とまったく公開されていない。実際に論文を作成する時には、「研究室の先輩が使っているから」「まわりがみんな使っているから」との簡単な理由で、研究室で受け継がれてきたソフトを使っているのが実情ではないだろうか?

 私が研究室を持って、スタッフや大学院生の論文作成を見ていて、出身研究室によってあまりにも論文を仕上げるためのソフトやテクニックに違いがありすぎるのに驚いた。しかも、私の目にはあまり効率よいものとは思えなかった。

 私は機会があれば多くの研究者に、どのワープロ・ソフトを使って本文を書いているか、どのソフトで図を作成しているかを質問する。その結果、研究室(研究者ごと?)によって使われているソフトが千差万別であることを知った。中には図を描くのに「まだこんな古いソフトを!」と驚くこともしばしばある(なんのソフトかわかりますか?)。「こんなソフトでどうやって複雑な図を書くんだ!」とか「曲線をどうやって書くんだろう」と思うことがしばしばある。

 また私は「ブライドタッチで文章を打てるか?」とよく質問する。結果は10人に聞いて、よくて1人が正統なブラインドタッチで打てるという低率である。ほとんどの研究者は昔から自己流で何となくキーを打ってきたから、特に不自由ないと思っているのではないだろうか?自慢ではないが(自慢かも)私は、正統なブラインドタッチで文章が打てる。しかもプロにはかなわないが、かなりのスピードで打てると自負している。大抵の研究者よりは速いのではないかな?これまでに他の研究者がキーボードで文章を打っているのを横から眺めていて、私より速く打てると感嘆したことはない。

 論文の最後には、あの面倒な文献コーナーが待っている。しかも雑誌ごとに文献のスタイルが違っているため、投稿論文がリジェクトされて別の雑誌に再投稿するときにはまた最初から文献を入力する、あるいは文章を変更したため文献の番号がズレてしまって混乱した、などの経験はないだろうか?

 現在は論文投稿、査読でもインターネットを経由したスピード化の時代になった。ほんの10年ほど前までの郵便(snail mail !)中心の時代とは隔世の感がある。昔を懐かしんでいるばかりでは現代のスピードについていけない。そこで投稿までの、論文作成に費やす時間を半分以下にできる効率のよいソフトの使い方がないものだろうか?この本は、そのために私が試行錯誤の末に習得した、より短時間で論文を仕上げるための、いくつかのソフトの使い方を解説した本である。

 最近はどの雑誌でもレビュアーから膨大な量の実験を要求されることが多い。ならば論文作成に費やす時間のいくらかでも実験に費やす時間にあてて、より多く実験を重ねることが、質のよい雑誌に論文を発表することにつながると思う?実験とそのデータ、そしてそれをもとにした論文の内容吟味にこそ時間を費やすべきで、論文作成そのものはできるだけ効率よく仕上げたい。

 この本の構成は、実際に私が発表した論文の作成に沿って、図の作成から、本文、文献の記入、投稿用ファイルの作り方までを、実例のままに説明し、実際に読者が論文作成のときにすぐに役立つようにしてある。

 

使用したソフトはすべてMac版 (OSX10.3.5)の

1、イラストレーター (Illustrator CS)

2,フォトショップ (Photoshop CS)

3,ワード (Word X for Mac)

4,エンドノート (EndNote 7)

5,アクロバット (Acrobat 6.0)

 

である。これらのソフトは、入手も簡単だし、論文作成のために最もポピュラーなものだと思う。どのソフトも高機能で解説書が分厚いが、科学論文作成の時に使う機能は、実はすごく限られている。本書でのソフトの使い方は、私が論文作成で使っている方法で、別にもっといい方法があるかもしれない。そのような別の方法を知っている人は、ぜひ、教えてほしい。

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